メキシコでESL教授法を学ぶということ

"どんなに頑張っても、日々努力してもネイティブスピーカーに私はなる事はできない。自分に限界があることもわかっている。でも同時に私は自分の長所も知っている。私は誰よりも機能的かつ実用的なレッスンをこれから英語を実際に教えていくあなたたちにすることができる "

私のESL/EFL教授法の講師が言った言葉。
彼はメキシコ人だけれど10代の頃からアメリカやヨーロッパで教育を受けていてさまざまな角度から英語教育に関わってきた。現在通っている学校には言語学の博士課程を持っている人やイギリスBBCラジオの制作スタッフという日夜言葉に携わっている人たちもやってくるので、顔にはまったく出さないけれど、すこしのぞいた彼の授業準備ノートには相当な時間を費やしたであろうと思われる書き込みがびっしりと整理されて並んでいた。

クラスが始まった頃にあった、彼を試すようなどうでもいい細かなところを突いたネイティブの意地悪な質問も今は影をひそめた。誰もがいまは彼を認めているのだ。淡々と自信を持って正確な事実を伝えようとする彼の姿勢から、わたしは授業内容以外のことを学んでいる。

自分のできることとできないこと。
努力してどうにかなることと限界のあるもの。
プライドの高い彼にとってそれを認めることはどんなに屈辱的なことだっただろうか。

私はそんな彼を尊敬している。

目下私の最大の弱点はプレゼンテーション構成能力。
こう見えても上がり性なので前に出てしゃべらなければいけない状況にはめっぽう弱い。
初日、「はい10分でこれ読んで要約してプレゼンして!」と言われたときには胃が痛んだ・・・誰が見ても上がってて、完璧に状況にのまれちゃって・・・情けないったら。でも毎日何度もそれを繰り返していると、段々慣れてきて今度は逆に時間制限をされることに喜びを感じるように。すらいみー!

こういうときはブエノスアイレスの指圧の先生の言葉を思い出す。
「何でも器用にささっとできる人は、素晴らしいですが、その人が実際に教えるという立場に立ったとき、かなり苦労します。反対に、すぐにはできないけれど試行錯誤しながら自分なりの解釈、解決策を身につけた人は、私がみている限り生徒にとって分かりやすい説明のできるとてもよい講師になっているようです。弱点はあればあるほど、克服したときのセールスポイントにもなるしねえ(わはは)」

現在私たちは主にメキシコ、中南米で英語を第二外国語として学ぶ生徒に教えることを想定して勉強しているので、スペイン語圏の生徒たちがどういうところを得意とするか苦手としているか、効果的なアプローチの仕方、避けた方がいい授業展開を教えてもらっている。
毎日夕方からは実際に提携の英会話学校で授業もしている。もちろん後ろにトレイナーが座っていて毎回厳しくチェック。
授業準備は念入りにしていくのだけれど、どんな生徒がやってくるのかはその時間にならないと分からない。整理された事前準備の重要さをひしひしと実感する日々。でも教えることはほんとうに楽しい。そして私がきっと誰よりも学んでいる。

ちなみにこの学校を卒業した生徒の就職率は100%と言われているので、クラスメートのほとんどがもう面接などを終えて新しい職場で教える準備を始めている。わたしも、メキシコに残って教える道を打診してもらったのだけれど、"今のところは日本で日本人に教えていきたいので"、と断った。"一生保障するからいつでも戻ってきなさい"、こんな言葉をかけてもらいながら、そういえばチリでも同じことを言ってもらったなあとぼんやり思い出した。

必要としてくれる人がいる。それを感じることは自分にとって大事なことだ。きっとあなたにとっても同じことだと思う。

こんなふうに日々心を温めてもらっている。
日本に帰ったら、今度はわたしがそんな役になれますように。